絵本専門士のえほんのはなし。~その8「字のない絵本」の楽しみかた~

みなさん、こんにちは。絵本専門士の水野有子です。今回は、「字のない絵本」の楽しみかたについてのおはなしです。

「字のない絵本」とはその名のとおり、文字(本文)が一切なく、絵だけでストーリーやテーマが展開する絵本のことです。

絵本とは本来、絵とことばが相互に作用してさまざまな情報を伝える表現媒体です。絵の意味を確定する働きをもつことばがないということは、それを読む読者自身がそれぞれに物語を作ることで初めて完成するということでもあります。絵本の〈絵が語る力〉と読者の〈絵を読む力〉が求められる、究極的なかたちのひとつであるといえます。

なんだか難しそう、と思われるかもしれませんね。本文がないなら読み聞かせもできないじゃない、と考える方もいらっしゃるかもしれません。でも、絵本というメディアにおいて読者の想像力をもっとも掻き立てるのは、実はこの「字のない絵本」かもしれません。

「字のない絵本」のパイオニアといえば、『旅の絵本』シリーズ(福音館書店、1977~2022年)の作者、安野光雅氏です。とりわけ『もりのえほん』(福音館書店、1977年)は、一見すると森のあちこちの様子が描かれているだけに見える〈難解さ〉が特徴。木の幹や葉、あるいはそれらで形成される“抜け”の空間に、たくさんの動物たちが隠されています。あえて分かりにくくすることで、読者自身が見つけた瞬間の驚きや感動をより際立たせるという狙いがあります。

このほか代表的な作品に『かさ』(太田大八 作・絵、文研出版、1975年)があります。モノクロームの街のなかを、ただひとり赤い傘を持った少女が進んでいくというストーリーです。これは、ある一部分だけを着色することでその部分を強調する「パートカラー」という表現手法。読者は自然と赤い傘を追い、道すがらの小さな出来事の数々を目撃します。公園、お店の前、歩道橋…と少女が移動するにつれ変化する情景から、少女の足音、雨音、さざめきなどたくさんの音を感じられる絵本です。

さてそんな「字のない絵本」、読み聞かせをする場合はどうしたらよいでしょう。

「字のない絵本」の読み聞かせは、2パターンに大別できます。ひとつは読み手がストーリーを主導し、叙述や質問を繰り返しながら読み進める形。もうひとつは、読み手が無言あるいは最小限の説明や承認のみにとどめ、聞き手が能動的におはなしの中へ入り込む足場づくりをしながら発話を促す形です。いずれも読み手の工夫が求められるところではありますが、聞き手の絵本への食いつきには目を見張るものがあります。絵本のなかでどんな会話が飛び交っているのか、おはなし会の参加者全員で想像してみるのも楽しいですよ。

テキストに拘束されない自由な読みとイメージの広がりが最大の魅力である「字のない絵本」。ことばや文化の壁をやすやすと乗り越える世界共通の視覚言語である〈絵〉を味わうのにうってつけです!

次回のテーマは【「昔話絵本」ってなんだろう】です。お楽しみに!

筆者の紹介

絵本専門士 水野 有子さん

絵本専門士4期 十勝在住
十勝初にして唯一の絵本専門士。
3つの公共図書館勤務を経て、現在は帯広大谷短期大学附属図書館に勤務。司書を務める傍ら、知的財産管理技能士や福祉住環境コーディネーターなどの資格も取得。
休日を利用し、私設移動図書館「えほんマイクロライブラリー」で地域に絵本を届ける活動をしている。

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