絵本専門士のえほんのはなし。~その7「赤ちゃん絵本」ってなんだろう~

みなさん、こんにちは。絵本専門士の水野有子です。今回は、「赤ちゃん絵本」についてのおはなしです。

赤ちゃんの定義について、母子保健法では出生から28日未満の乳児を「新生児」、満1歳に満たない子どもを「乳児」としています。それに対し「赤ちゃん絵本」は、一般に0、1、2歳児を読者対象とした絵本を指します。

でも、0歳児と2歳児では発達の面で大きな違いがありますよね。例えば1歳0か月と1歳6か月でもその差は歴然。人生でもっとも成長・発達が著しい時期(身長・体重は倍増、視力や発話も雲泥の差!)ですから、いわゆる「赤ちゃん絵本」を指すものにはかなりの“段差”が生じます。出版社がそれぞれ設定する「赤ちゃん絵本の対象年齢」もばらばらですし、一緒くたに括ってしまうにはあまりに多様で難しいジャンルであるといえます。

赤ちゃん絵本は、ストーリーそのものを楽しむ以前に、近しい人との触れ合いの時間を創出するという役割があります。赤ちゃんとおとながひとつのモノを介して気持ちを通じ合わせる「三項関係」が成立する時期(生後9か月ごろといわれます)以前でも、赤ちゃんを膝に乗せるなどしてスキンシップを図りながら、声を聞かせ、ぬくもりと安心感を与えることが大切です。感覚系のなかで最も発達が早いのが聴覚。生後5日目の赤ちゃんにお母さんの声とそれ以外の音を聞かせると、赤ちゃんの脳は胎児のころから伝わっていたお母さんの声に最も反応するそうですよ。読み聞かせをしても反応がないし…なんて思わないで。そっぽを向いていても、赤ちゃんにはきっと伝わっています。

以前、生後6か月の赤ちゃんに『桃太郎』を読んで聞かせるという動画を見たことがあります。上流から桃が流れてくる場面で、その赤ちゃんは何度も声を上げて笑っていました。『桃太郎』の物語を楽しんでいるというより、近しい人が親しみを込めた声で「どんぶらこ、どんぶらこ」と読み上げるリズムが心地よかったのだと考えられます。

やさしいことばで紡がれた絵本を読むことで、赤ちゃんの一番近くにいるおとなが心穏やかになれば、赤ちゃんも自然と安心感を得ることができます。ですからこの時期は、絶対に赤ちゃん絵本でなければならないということはないと思います。対象年齢や文章量にとらわれず、まずは自分自身がやさしい気持ちになれる絵本を読んで、赤ちゃんに聞かせてみてはどうでしょうか。赤ちゃんが絵本をモノとして認識し興味を持ち始めるようになってから赤ちゃん絵本に移行しても、遅いなんてことはありませんよ。

赤ちゃんとおとなが一緒に楽しめる絵本のひとつに『くっついた』(三浦太郎 作、こぐま社、2011年)があります。ページをめくると金魚やゾウさんがそれぞれのやり方で「くっついた」。最後はお母さんとお父さんが、赤ちゃんに「くっついた」をするおはなしです。赤ちゃんとどう遊べばいいかわからないときは、ぜひこの絵本を真似してみてください。肌からたくさんのことを感知する赤ちゃんは、くっつくのが大好きですよ!

次回のテーマは【「字のない絵本」の楽しみかた】です。お楽しみに!

筆者の紹介

絵本専門士 水野 有子さん

絵本専門士4期 十勝在住
十勝初にして唯一の絵本専門士。
3つの公共図書館勤務を経て、現在は帯広大谷短期大学附属図書館に勤務。司書を務める傍ら、知的財産管理技能士や福祉住環境コーディネーターなどの資格も取得。
休日を利用し、私設移動図書館「えほんマイクロライブラリー」で地域に絵本を届ける活動をしている。

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